「歯科衛生士は転職回数が多い」とよく言われています。
それは本当なのか、検証してみましょう。
まず「労働者全体」と「歯科衛生士」で転職を考えている人口を比較します。
女性労働者全体を見てみると、転職を考えている人は13.8%(総務省 「労働力調査」)であるのに対し、歯科衛生士では20%(歯科衛生士日本歯科衛生士会「令和2年 歯科衛生士の勤務実態調査報告書」)となっています。
質問の方法が異なるので厳密な比較は出来ませんが、ここまで差が開いていると歯科衛生士は転職意向が高い傾向にあると言って差し支えないでしょう。
さて、それは何故でしょうか。
院長(経営者)が教育体制を用意していない
例えば一般の会社に就職した新卒の会社員であれば、実務を模した”研修”が用意されています。しかし、歯科医院でそのような体制を構築するのは、大規模な医院以外にとって困難です。結果的に治療の現場で研修をしてゆく事になるのですが、丁寧に教えながら育てる事ができる人員配置を出来る医院はごく少数です。
当然、働いている歯科衛生士にとってはスキルアップが望めない事は転職を考えるキッカケになるでしょう。
院長(経営者)がマネジメント出来ていない = 給与が上がらない
少し辛い職場でも、給与が良ければ我慢できる人が多いでしょう。
しかし歯科衛生士の平均年収は 約400万(歯科衛生士日本歯科衛生士会「令和2年 歯科衛生士の勤務実態調査報告書」)と言われています。
それでも女性の労働者全体から見れば高い方なのですが、大企業と異なり、医院の経営は少数で行っています。場合によっては家族経営もあるかもしれません。明確な給与テーブル・スキルの評価軸が無いため、院長の気分で給与が決まってしまう傾向が高いのです。
歯科衛生士さんからすると、そのような経営者に昇給を掛け合うよりより良い条件の医院に転職した方が早いという結論になりがちです。
逆に、離職率が低い医院は、給与テーブルや教育体制が整っている傾向が強い = スキルアップも望めると言えます。
退職者が出た医院は早く穴を埋めなければいけない
歯科衛生士が退職した医院は、次の人材を急いで確保しなければいけません。衛生士がやめたからと言って患者さんが減るわけではありませんし、ローンが残るユニットをカラにしておくわけにもいきません。普段から予備の人材を雇用している事もありませんから、急に人材が必要となる事が日常茶飯事です。医院側は採用を急いでいます。少し条件が違っても雇ってしまう、のが現状です。歯科衛生士さんの視点から見ると「今の医院を辞めてもすぐ仕事が見つかる」と捉えられがちです。もっとも、そうやって選んだ職場は長く続かないのですが…
歯科衛生士は足りない
歯科衛生士の有効求人倍率は非常に高い水準で推移しています。
とりわけ新卒では20倍を超えますし、我々が転職エージェントでお手伝いした衛生士さんも、ほぼ希望の医院で決定します。逆に考えると、歯科衛生士は今の仕事をやめてもすぐ次が見つかるのです。条件の折り合いがつかない医院はすぐに退職してしまいます。結果、離職率が高くなってしまいます。
離職のほとんどは子育て
転職エージェントとして多くの求職者さんとお話をしていると、子育て(将来的に仕事を辞めても手に職が残る)を前提に歯科衛生士さんのお仕事を選んだ人が多いようです。確かに歯科衛生士の”離職率”は高いのですが、理由の殆どが子育てです。あとで復職する人も少なくない事を考えると、給与や仕事の内容を理由にして離職する人はそこまで多くないように思います。